***
午後11時前、Dに見送られ、フランクフルト中央駅からミラノ行きの夜行列車が10分遅れで出発した。発車ベルもなく、突然ドアが閉まり列車が動き出すのはいつものことだ。6人用クシェットは私のほか、ドイツ人と中国人の女性だった。クシェットやコンパートメントは男女別でチケットを販売していないらしい。
旅の本質がどこにあるかはともかく、夜、見知らぬ町へ、宿もさだめずに移動しつつある時間にもっとも旅の旅らしい感慨をもよおす。8年前にユーレイルパスで初めてヴェネツィア〜ウィーン間の夜行列車に乗って以来、旅情を掻き立てるこの移動手段が好きだ。ホテル代も込みと考えれば、ヴェネツィアまでの150ユーロは高くはないと思う。
つまりすべての帰属感からの解放である。
(中略)
旅は楽しいものだ。しかし、夜遅く、ガランとほとんど乗客のいない列車の窓にもたれて過ぎていく景色を眺めていると、たまに見える人家の灯がひどく暖かくおもわれる。(玉村豊男「東欧・旅の雑学ノート」)
私の寝床は3段式の下段だった。スーツケースはベッドとベッドの間に起き、リュックは枕元に置いた。夜行列車でいつも困るのが、メガネ置き場。普段使うことのないメガネケースを持ってくるのを忘れてしまうから。
10分遅れで出発した理由を警察の捜査とアナウンスしていたので、爆弾テロの脅迫でもあったのかと思ったが、同室のドイツ人女性は「ドラッグじゃないかしら。この列車はオランダから来ているから」と教えてくれた。この女性は「国境を越えるエンジニア」のメンバーで会議のためフィレンツェに行くと言っていた。
EU外のスイスを通過することからパスポートを車掌に預け、それから消灯時間がやってくると布団をかぶって横になった。DにSMSを送り、それからすぐに寝ることができた。

0 件のコメント:
コメントを投稿